おのしゅうのブログ

旧タイトル 注釈の多いオノマトペ

綾瀬駅から綾瀬市へ 中編

前編から続く


綾瀬駅を出発したのは午前9時頃だった。
GoogleMapで調べたところ、綾瀬駅から綾瀬市は56kmほどあるようだ。
時速4.5kmで歩き続ければ13時間弱かかることになる。22時頃の到着を目標とすることにした。
決して楽な行程とは言えないが、やってやれないという長さでもなさそうだ。
平地だし重い荷物を担ぐわけでもない。その気になれば時速5km以上で歩くことはできる自信もあったし、何とかなるだろうと思っていた。


綾瀬駅周辺は、ザ・住宅街といった雰囲気である。
神奈川の綾瀬市も住宅地なので、この辺からも綾瀬はやはり綾瀬だ、ということができる。

それにしてもGoogleMapはえらく狭い路地のような道を提案してくる。



歩いて行くと大きな川にあたった。
荒川である。大河である。
 [ 
遠くにスカイツリーが見える。
川を越えると移動してる感がきっちりと感じられなかなか良い。


線路を越えて、ここからいよいよ山手線の内側に入っていく。

どうやらここは鶯谷と日暮里の間のようだ。

東京大学の間を抜けてさらに歩いていくと見覚えのある巨大建造物が見えてきた。東京ドームである。


東京ドームには何度か来たことはあったが、歩いて来たことはないので、
他のところとの位置関係を改めて知った。


中央線沿いを歩いていく。

中央線から、私が歩いている方面を眺めたことは何度もあったが、逆は初めてである。
新鮮でなかなか楽しい。



神宮球場に着いた。ものすごい人手であった。
どうやらイベントがあるらしい。

この日、ここではシティハーフマラソンなるイベントが行われているようだった。
スタートまではまだ少し時間があるようで、さわやかスポーツマン風の集団が大勢で闊歩している。
さわやかな笑顔がまぶしい。


ひとりで歩いているわたしより、グループでマラソンの方があきらかに楽しそうだし健康的である。
わたしだってこの綾瀬行きを行うにあたって何人かに「綾瀬から綾瀬に一緒にいかないか」と声はかけたのだ。
しかしみな一様に「それ、なにが面白いの?」というだけで興味すら持ってくれなかった。


そんなやりとりをふいに思い出してしまった。



賑やかな渋谷を抜けて、ここでようやく山手線の外側に出る。
歩き始めから約19km。時刻が13時30分。時速にして4.2kmくらいのペースで来ているようだ。


単調な国道246号をただただ歩く。
ここまで道のりは、谷中のあたりでお寺を中を歩いたり、やれ東京ドームだ中央線沿いだ神宮球場だ渋谷だなどと
東京の名所が満載でややもすると当初の目的を忘れがちになっていた。

しかし、わたしは東京見物に来たわけではないのだ。綾瀬から綾瀬を目指していたのだ。
観光気分が急に抜け、綾瀬市がまだまだ先でそしてそこまで歩いて行かなければならないという事実が重くのしかかり始めていた。


青看板の「厚木45km」という表示にも驚いたが(厚木市綾瀬市のとなりのとなり)、
歩いても歩いてもその青看板の数字が減っていかないのだ。
この国道246号線は、周りの風景が変化に乏しく、進んでいるという実感が得にくい。
そして青看板の「厚木〜km」という数字は遅々として減っていかない。
タヌキにでも化かされているんじゃなかろうかと、本気で思った。


見えないタヌキと戦いながらなんとかかんとか歩いていくと大きな川が見えてきた。多摩川である。
この川を越えれば神奈川県に入る。
 


多摩川を渡りきり、神奈川県に入ったあたりで体に変調が起こってきた。
最初の兆候として現れたのが、iPhoneの指紋認証が効かなくなったことだ。
何度iPhoneに指をぐりぐり押し付けてみても反応しないのだ。(今は元どおり反応する)


さらに、車道から歩道に上がる際のごく小さな段差に躓くようになった。
頭の中ののイメージと体の動きが明らかにズレがでてきているようなのである。


そしてはっきりと歩く速度が落ちてきた。
出発の直後の荒川のあたりでは、若いウォーキング風の男性をぐいぐい追い抜いていくほどの速さだったのだが
いまや買い物帰りのエコバックからネギが飛び出ているオバちゃんに追い越されるしまつである。


このままではマズい。
神奈川県に入ったとはいえ、まだ綾瀬市までは29kmもあるのだ。
綾瀬市はまだ、はるか彼方だ。綾瀬はるかだ。


ここまでの道のりが27km。全行程56kmの半分弱ということになる。
綾瀬駅を出発したのが、午前9時過ぎ。
全行程の約半分の二子玉川で16時前。約7時間弱かかったことになる。
単純に計算すれば綾瀬市に着くのは、23時頃ということになる。
ただし、これはここまでのペースを維持することが前提となる計算である。
ただ、ここで立ち止まっていても綾瀬市が近づいてこないということだけは間違いがないのでとにかく歩くことにする。


そして綾瀬駅から31km地点あたりのローソンでカルピスを飲みながら休んでいるときに、全身に変な震えを感じた。

時刻は17時過ぎ。綾瀬市まではまだ25kmほどある。
いまのペースでは綾瀬市に着く頃には日付が変わってしまうかもしれない。
綾瀬市には駅がない。そんなことになったら綾瀬市で行き場を失ってしまう。


地図によると、この近くに東急田園都市線の「梶が谷駅」がある。
田園都市線に乗れば中央林間まで行ける。
中央林間からは小田急線に乗ることができる。
小田急線に乗ればわたしの住む藤沢に帰ることができる。
しかし、ここで電車に乗ってしまえばここまでの31kmが無駄になってしまう・・・。


     

一度頭に浮かんだ「電車」という言葉に逆らえず、気がつくとわたしは田園都市線の車内にいた。


後編に続く