おのしゅうのブログ

旧タイトル 注釈の多いオノマトペ

「18782+18782=37564問題」について思うこと +『64物語』

[[]] もう昨年のことですが、私の住む藤沢市内の小学校でちょっとした問題が起こりました。
神奈川新聞で記事になり、yahooのトピックにもなるなどそれなりに話題になったものです。


以下記事の引用です。

 『算数授業で「皆殺し」 18782(嫌なやつ)+18782=37564』


 藤沢市立滝の沢小学校(同市遠藤)の女性教諭(40)が4年生の算数の授業で電卓の使い方を教える際、「嫌なやつ(18782)と嫌なやつ(18782)を足すと皆殺し(37564)になる」との語呂合わせを用いていたことが19日、分かった。保護者の反発が強まっており、市教育委員会は不適切な指導内容だったとして近く保護者説明会を開き、謝罪する意向を示している。

 市教委などによると、女性教諭は10月30日、担任するクラスで「今から恐ろしい問題を出します」と切り出して語呂合わせを伝えた。市教委の調査に対し、「本かインターネットで見て記憶に残っていた。数字に興味を持ってもらうため扱ったが、反省している」と話したという。

 ある保護者は「語呂合わせを覚えてしまった子どもが面白がって『皆殺し』『皆殺し』と口にするので困惑している。きょうだいに伝えるなど悪影響も出ている」とした上で、「嫌なやつは殺してしまえとも取れる内容で、昨今のいじめ問題にも反する授業だ」と憤る。

 問題の授業は、保護者らが県教委に連絡して発覚。19日に市教委が同校に事実確認し、同教諭が認めたという。市教委は「命の大切さを伝える教育に取り組む中で、不適切な指導方法」としている。


引用はここまでです。


 このニュースに対して、コメント欄などをザッと見てみると
「授業において、皆殺しは不適切だ」というような意見もありましたが、
「これぐらいのブラックジョークは許されるべきだ」や
「算数に興味を持つきっかけになり面白い授業じゃないか」とか
「騒ぐほどのことではなく、保護者の過干渉だ!」など、この教員を擁護する意見も数多く見られました。
 正確に数を数えたわけではありませんが、授業内容に批判的なコメントよりも擁護するコメントの方が多かったように見受けられます。


 この授業に関し私の個人的な考えを申し上げると、やはり『算数の授業』としては不適切だろうと言わざるを得ません。
 その理由ですが、「皆殺し」という言葉が不適切だ!ということではなく、
18782(嫌なやつ)+18782=37564(皆殺し) ということを覚えたからといって『算数の力』には全く関係がありませんし、生徒(小学校では児童?)が面白がって「嫌なやつ、皆殺し」といくら言ったところで、それはこの教員が言っていた『数字への興味』へは関係がほとんどないからです。
 故に、私はこの授業は良い授業ではないと考えます。


 では、どうすれば良かったのか。
 これを国語の授業で扱えば良かったのではないかと、私は考えます。
例えば以下のような授業展開が考えられます。


「18782(いやなやつ)+18782(いやなやつ)=37564(みなごろし)」
なぜ、このような語呂合わせができるのでしょうか?
少し考えれば、794(鳴くよ)ウグイス平安京、や1192(いい国)作ろう鎌倉幕府など、
数字と語呂の組み合わせで知っているものはいくつかは出てくるはずです。

『123456789』←これをどのように読むか。

(1)いち.に.さん.し.ご.ろく.しち.はち.きゅう
(2)ひとつ.ふたつ.みっつ.よっつ.いつつ.むっつ.ななつ.やっつ.ここのつ

この2パターンが考えられます。(ご承知のごとく、(1)が音読みで、(2)が訓読みです)
いやなやつ(18782)も、みなごろし(37564)も音読みと訓読みが混在していることが見たらわかる。
しかも、「いやなやつ」の最後の「2」は英語(ツー)です。


ひとつの数字に対して、音読みと訓読みという二つの読み方(英語もいれたら三つの読み方)があることがわかれば、生徒の中で「国語」に対する関心が起こることが期待できます。

ここからは、音読みと訓読みという知識的な学習も出来ますし、
数字の語呂で知っているものを挙げてみるなどという展開も考えられます。
少し発展的な授業になりますが、数字の語呂を使った物語の創作などもできるかもしれません。


私自身は以下のような物語を考えてみました。





『64物語』


「お姉ちゃん!お帰り!」
家に帰るなり弟が飛びついてきた。正直、うっとおしい。私はとても疲れている。
「あのね、聞いて、お姉ちゃん!今日ね、学校の算数の授業で先生がね・・・。」
 際限なく話を続ける弟を、私は軽く64(無視)した。私は本当に疲れている。
 学校でも疲れた。そしてまた今度はこの家の中で、また疲れを溜める。
相槌も打たずに64(無視)を続ける私に構わず、弟は話を続けている。

「あ、ミナコおかえり」
母だ。私の精神的な疲労の原因はこの人によるところが大きい。
「今日の晩のおかずは64(蒸し)餃子よ。あなたも好きだったでしょ。」
 違う。私はむしろ焼き餃子の方が好きだ。
 そこに、父が二階から降りてきた。
「お!今日は64(蒸し)餃子かい? 好きなんだよね! 64(蒸し)餃子! うれしいなあ! 64(ムフォー) 64(ムフォー) ・・・・・・。まあ、64(蒸し)餃子は、イチタロウが一番好きだもんなあ・・・。」
 そうだ。この家で一番64(蒸し)餃子が好きなのは、父でもなく、母でもなく、弟でもなく、無論私でもなく、兄のイチタロウなのだ。

「イチタロウ、もう帰ってくる頃かなあ・・・。」
 父がポツリとつぶやく。
そうなのだ。数週間ほど家を空けていた兄のイチタロウが、今日、帰ってくる。
その兄に対し、どう接していいかわからず、母は64(蒸し)餃子を作り、父は64(ムフォー)などとアホなことを言って、必死に気を紛らわしているのだ。それが私には耐えられないほど苛立たしい。
「あのさ、お父さん、お母さん・・・」
と、言いかけたところで、ドアノブがガチャリと回る音がした。兄が、イチタロウが帰ってきたのだ。

「ただいま。帰ってきたよ。父さん、母さん、いろいろ迷惑かけちゃったけど・・・」
「いいのよ、イチタロウ。疲れたでしょう。ささ、とりあえずご飯でも食べて。あなたの好きな64(蒸し)餃子を作って待ってたのよ」
この白々しいやりとりがとても耐えられない。
「ミナコ、お前にも迷惑かけたな。これからはもっと64(無心)んで頑張るから。」
この男が、自分のかけた迷惑についてどれほど理解できているのだろうか。
鳥肌が立つほどの嫌悪感を感じながら、兄の発言を64(無視)する。
弟が無邪気に、64(蒸し)餃子を頬張っている。
久々の家族団欒がぎこちなく進んでいく。


「!」
兄の視線が一瞬、おかしなところで止まった。その刹那、兄が、
64(虫)が、、、、64(虫)が、、、、うわあああああああああー、64(虫)がああああああ」
と叫んで暴れ出す。
「イチタロウ!どうした!64(虫)なんてこの部屋にはいないぞ!」
父が必死で止めようとするが、恐怖で顔を歪めて両手を振り回す兄を止めることはできない。
「なんで! 父さん見えないの? 64(蒸し)餃子から、たくさんの64(虫)がウジャウジャ! うああああああああ」
兄は64(蒸し)餃子を手で掴み壁に投げ続けた。

喧騒は数分で終わった。兄は椅子の背もたれに後頭部を乗せ、魂の抜けたような顔で宙を見つめている。
母のすすり泣く声が聞こえてきた。私はそれを冷ややかに見つめる。
「なんで・・・、なんでこんなことに・・・。ってミナコ! なんであなたはこんな状況でそんなに落ち着いていられるの!」
兄にぶつけることのできない怒りが、こちらに飛んできた。母がそんなことを言うならこちらにだって言いたいことがある。


「そりゃさ、慌てたりしないよ。だって私こうなること分かってたもん。お母さんもお父さんもはっきり言ってくれてなかったけどさ、お兄ちゃんがこの数週間家にいなかったのって、警察に行ってたからだよね?」
「・・・。」
「ここまで言っても、答えてくれないんだ・・・。まあいいや、もう分かってるから。大麻取締法違反?だっけ?こないだ学校で習ったよ。マリファナとか、葉っぱとか言うんだっけ? 要は麻薬だよね。」
「・・・ミナコ、お前それをどこで・・・?」
「お父さん、本当に私が知らないとでも思ってたの? あきれた。」
「外で、わたしが何て言われてるか知ってる? 別にそれはもういいけど。わたし、こうなること分かってたよ。フラッシュバックって言うんだっけ? お兄ちゃんが、『64(虫)が・・・』って言い出した時にすぐピンときた。ああ、これがそうなんだなって。」
「お前は、こうなることがわかっていたのか・・・。」
「そりゃそうだよ。」


8×8(葉っぱ)64(虫)はつきものだもの」