僕とヒロシと品川で
その彼が電車に乗り込んできた時
私はドアのわきに寄りかかって本を読んでいました。
彼はなんとなく、少し昔に少し流行った芸人のヒロシに少し似ていました。
おそらく年は私と同じくらいか少し下というところでしょう。
ヒロシは私の向かいに陣取りました。
そのとき私が読んでいたのは、
『山伏』 和歌森太郎著 1964 中央公論社
(修験道の歴史が綴られた名著、ご一読をお奨めします)
というようなものでした。
そこでヒロシもまた鞄から新書(確か岩波)を取り出したのです。
それは「日本経済のこれから」(正確なタイトルは忘れました)
などというものでした。
その瞬間私は愕然としました。
向こうは日本経済、こっちは修験道。
私の負けは明らかでした。
これは一年程前、やはり同年代と見られる金髪の男に
デイリースポーツを読んでいる私の前で
日本経済新聞をばさばさ広げられて以来のはっきりした負け勝負でした。
そういう訳で私はブックカバーを買いました。