トウキビ畑でつかまえて
あれは七年程前、
大学の二年生の頃だっただろうか。
その日夏の帰省を終え、僕は空港にいた。
太陽がギラギラと照りつけ、とても暑い日だったと記憶している。
羽田空港は人でごったがえしていた。
機内に向かう連絡通路の途中、
僕の少し前にその男がいた。
歳は30を少しすぎたくらいだったろうか。
六花亭の紙袋を持っていた。
六花亭とは北海道は帯広のお菓子メーカーで
バターサンドが特に有名だ。
北海道では、「白い恋人」の石屋製菓も有名であるが
そんなものとは格が違う、と僕は思っている。
4年間の大学生活の中で土産にしたのは
この六花亭と、後は酪恵舎のチーズぐらいだった。
男が持っていたのは、その六花亭だった。
六花亭と飛行機、
連想ゲームで出てくる程ではないかもしれないが
ありふれた組み合わせだ。
ただ、それを見た時に何とも言えない違和感を覚えた。
それが何なのかその時は分からなかった。
座席に座ると僕はすぐに眠ってしまった。
目が覚めたときは雲の上だった。
そこで漸く先ほどの違和感の中身に気がついた。
この飛行機は釧路行きだ。
北海道土産をもって北海道に向かう、
おさかなくわえたサザエさんをドラ猫が追いかける、くらい不自然だ。
飛行機から降りて直ちに男を探したがその姿はどこにも無かった。
あれはきっと幽霊だったのだ。