おのしゅうのブログ

旧タイトル 注釈の多いオノマトペ

釧路川リベンジ  その二

H田君(ヒマラヤマへ行ってしまった)と別れた我々一行は
日暮れ近くまで漕ぎ続け、標茶の街の河原でテントを張ることにした。


その日は、標茶の街のセイコーマート(北海道が誇るオレンジのカンバンのコンビ二。コンビニなのに値引き販売を行っている)へ買い出しに行った。
山の縦走だとこうはいかない。気軽に買い出しに行けるのは街と街を通って行く川旅の便利なところだ。


モルトクラブ(ウィスキー)とリボンシトロン(サッポロの炭酸飲料)を購入し、
ハイボールを作り三人で1本空けた。


奇しくもこの日はわたしの20何回目かの誕生日で、
一日中漕ぎ続けた疲れもあったはずだが、二人が多いに祝ってくれた。
記憶があやふやになるほど呑んでしまい、
かすかに残る記憶と二人から聞いた話を合わせて思い返すと


「涙ぐみながら音程・リズムといったものを無視して『知床旅情』をがなり、川に向かってウエー、ウオー、バァーなどと叫んでいた」ようだ。
この頃はいろいろなものが胸の内に渦巻いていたんだと思う。一言で片付けると「若かった」ということだろうか。


本来このような場面で、記憶をなくす程酒を飲むというのは褒められたことではないが、
翌朝の目覚めはすっきりとしたもので、元気よく三日目を漕ぎだすことができた。


標茶を過ぎると、釧路川川下りのハイライトである釧路湿原に入る。
この「釧路湿原」の区間だけを漕いでいる、ツアーやクラブらしき船も何艇か見かけた。
うねうねと蛇行し流れも緩やかで繊細、楽しい区間だ。


ツアーの船のほとんどが上陸するカヌーポートを通り抜けさらに先に向かう。
岩保木水門で、川は(旧)釧路川と新釧路川に別れる。


(旧)釧路川(もともとの流れ)は下ることができないので、船は新釧路川に入る。
釧路川は、治水のために作られた新しい流れなのでひたすら真っすぐである。
両岸も整備され味気ない。
ついでにいうと流れもない。
さらにいうと海からの風を受け逆風の中を漕いで行くことになる。


だからこんなところを船で漕いで行くという物好きはあまりいない。
しかし、ゴールを鳥取大橋と定めたので、なんとしてもそこまではいかなければならない。
(その岸辺に車がおいてある)


なにかの修行でもしているかのような心持ちでひたすらに漕ぐ。
するとようやく橋が見えてきた。このときの達成感はなかなかのものであった。


ところが、上陸予定地点をみるとちょっとあやしげな男たちが10数人たむろしている。
若干の違和感は感じたが、疲れきった体である。あまり細かいことを気にしていられない。
そのまま上陸する。


すると、そのちょっとあやしい男たちが慌てふためいている。
「やべーよ」
「いや、これそうか?」
「ちがうんじゃねーの?」
「いや、でもさっき・・・」
などと我々を見ながらごにょごにょ言っている。


その中で割と年配(50くらいか)の男が、おそるおそるといった感じで
「おまえらはどういう関係のものなのか」と、問うてきた。
「ヒマな大学生だ。屈斜路湖から川を下ってきた」と答えると男たちは心底安心したようで、


「実は自分たちはサケの密猟を行っていて、あなたたちを取り締まりの人間と勘違いした」
などというのである。
「さっき取ったサケを一匹やるから通報しないでくれ」
などとも言っていた。


H大の二人はその日札幌に帰る予定であったし、
わたしもサケ一匹まるごとなどもらっても処理できないので断ると、
「そうか」
と言ってその男たちは立ち去って行った。


やっぱり、もらってもいいと言えばよかったと、わたしはときどき思うのです。