雨の多摩川紀行
箱根の芦ノ湖で進水式を行った約一ヶ月後の、2009年12月5日(土)
わたしとI垣君(わたしの高校時代の友人の友人)は多摩川へ向かいました。
あの東京都と神奈川県の県境を流れる『多摩川』です。
京王稲田堤駅近くの河原を出発地としました。
少し曇っている空に嫌な予感を感じながら、
「今回は雨男のS田君はいないから大丈夫」
などと根拠のない気休めを言いつつ、船を組み立て出発します。
前回の湖と違い、今回は川なので特に漕がなくても船は何となくすすんで行きます。(ひとが歩くくらいの速度)
前回の芦ノ湖での進水式では、漕いでも漕いでも進まない「手漕ぎボート」に行き帰りとも乗るはめになったI垣君でしたが、
「この間は、『ウサギとかめ』のカメさんだったが、今回は『桃太郎』のモモにでもなった気分だ」
と、上機嫌でした。
漕ぎだしてから15分くらいで取水堰がありました、
取水堰とは、落差3mくらいの人工的な滝とでも言ったらイメージがしやすいでしょうか。
そのままそこに流れて行くと船もろとも落下してしまうので、
堰の手前で一度上陸し、船を担ぎ上げ取水堰の川下から再出発をします。
取水堰は、その名の通り水を取るための小型ダムみたいなものなので
取水堰をすぎると川は水量が少なくなります。
ということは、川が浅くなるということです。
となると、カヌーが水底に引っかかって進めなくなるという場面がしばしば出てきます。
とすると、二人とも一度降りて水の中をザブザブと歩き、深くなるところまで船を引っ張って行かなくてはなりません。
浅いとはいえ、膝くらいまでの水深はあります。
12月の川の水はなかなかシビレルものでした。
多摩川という川は、この『堰』がやたらと多く
漕ぐ → 堰がある → 上陸して堰の川下まで船を運ぶ(ポーテージと言うそうです) →
堰の川下から再出発 → 浅い → 船乗り上げる → 船から降りて深いところまでジャバジャバ歩く →
漕ぐ → (上へ戻る)
上記を何回か繰り返すことになり、都度、体力と体温と意欲が失われて行きます。
へろへろになった正午頃、お昼を食べるために上陸した街が「二子玉川」でした。
「二子玉川」という街にはこれまで行ったことがなく、
不動産屋のキャッチコピーで、
『都心が嫉妬するまち、二子玉川』
とかなんとかの表現を見た覚えがあったので、
「ひょっとしたらとてもハイソな街で、こんなコキタナイなりで歩いたら石でも投げられないだろうか?」
「オシャレで値段も高いごはんやさんしかないのではないか?」
という不安を抱えつつ、街に乗り込んだのですが
裏路地をくぐり抜けて、至って平和で庶民的な中華料理の店に入ることができました。
考えてみれば、不動産屋にかかればどんな街でも
「魅惑の、羨望の、今熱い、注目を集める、高級感のある、すばらしい街」
になるもので、ちょっとビビリすぎだったかもしれません。
腹ごしらえをすませ、体もあたたまり、気合いを入れ直した我々
「二子玉川」から再び漕ぎ始めました。
そこから、一時間程立った後、
ついに雨が降ってきてしまいました。
最初のうちは気にしないふりをしていたのですが
そのうちに顔に当たる雨粒が痛いくらいになってきました。
そこでいたしかたなく断念です。緊急上陸した街は、
「本当」に、魅惑があり、羨望の、注目を集める、正真正銘の高級住宅街である
『田園調布』でした。
雨に濡れながら、夜逃げのようにあわててカヌーをバラします。
バタバタと荷物をまとめて、高級外車が並ぶでかい家と家の間を通り抜け駅に向かう私たち。
「不審者に注意!」「怪しいひとを見かけたらすぐ110番」
などのカンバンが目に痛いです。
全身ずぶ濡れで、傘もささず、なんだかよくわからないでかい荷物を抱え、高級住宅街を疾走する我々。
怪しい不審者だと言われても反論できません。
今度は石を投げられるどころではなく、下手をしたら通報です。
恐ろしい街です。
居酒屋で反省会を行い、
『次は、もっと暖かい時期に、前日にてるてる坊主を作り、もっと田舎の川だ!!!』
を合い言葉に次回の計画を練るのでした。