おのしゅうのブログ

旧タイトル 注釈の多いオノマトペ

チェンジアップをもう一球  その1

野球が好きです。


部活などで本格的にやったことは一度たりともなく、ここのところは観戦が専門なのですが
今から8年程昔、異常に野球に燃えていた時期がありました。



わたしの通っていた大学には毎年5月頃「朝野球」というイベントがあり、
「研究室」「部活」「サークル」「呑み友達」などの単位でチームエントリーが行われ、
いつもだいたい30チーム前後が参加をしていました。


『現役野球部員が投手を務めてはいけない』
『準優勝チームが次年度の幹事となる』


以上2点のみが明文化されたルールで、
あとはまあ何となくその場の雰囲気でやりましょうよ、というぬるい野球大会でした。
(試合開始が5時半頃だったのでその点だけはあまりぬるくありませんでしたが。)


昔から、ぜひ一度「野球の試合」をやってみたいとの思いを抱いていたわたしは
周りのひとを無理矢理捕まえてはキャッチボールなどに励み、
ついには、球速を70km→90kmにアップすることに成功しました。
(一般的に成人男性は100kmくらいの球を投げられるらしいので
 相対評価で言うと遅い部類なのですが、当社比でいうと30%upです)


わたしの所属する『チーム国語研究室』は、ひとつ先輩に「Y本さん」という、
県大会ベスト4までいったことのあるの県立高校野球部で
3年間球拾いをやっていたという輝かしい経歴をもった左腕がいたのですが、
それ以外はみな運動神経のあまりなさそうな野球未経験者ばかりで、
そもそも9人そろうかどうかすら怪しいというチーム状況でした。


ただ、「実力はまるでないが野球をやってみたくてたまらない」
というわたしには願ってもないチーム事情です。
人数がギリギリなのですからスタメンは確実ですし、
もしかしたらかっこいいポジションを守らせてもらえるかもしれません。


そうこうしているうちに朝野球大会が開幕しました。
まずは4チーム総当たりのリーグ戦を行い、上位の2チームが決勝トーナメントに進めるという方式です。
この年もやはり30チーム前後のエントリーだったように思います。


第一試合の相手は「体育会バスケットボール部」でした。
我がチームの先発投手は、唯一の野球経験者「Y本さん」です。
わたしも「7番セカンド」でスタメン出場することができました。


結果から言うと、この試合は「0−5」の惨敗でした。
我がチームの打線の貧打もさることながら、
先発の「Y本さん」の先頭打者へのデッドボールを含む大乱調が致命的でした。
そもそもペンより重いものを日頃あまり持たない我々と、
野球ボールの何倍もの大きさのバスケットボールを自在に操る彼らとでは、勝負は目に見えていたのかもしれません。


この試合に敗れたこと自体はそれほどの問題ではなかったのですが、
困ったことに、先発投手だった唯一の経験者「Y本さん」がすっかり不貞腐れてしまい
「もうなげたくない」
「しょせん私には球拾いがお似合いなんです」
などと駄々をこねてしまいました。


もともと我々の「チーム国語研究室」のモチベーションは決して高くなく、
『これまで毎年出ているのだから、今年やめる理由はない』
という先例主義に則ってエントリーをしたにすぎなかったので、
チーム全体が、
「あと2試合はあるのにどうすんのよ。あーあ、めんどくさい。」
という空気になってしまいました。


そこで、わたしは
「いま名乗りをあげれば、あの憧れの『ピッチャー』ができるかもしれない。」
と考え、
「次の試合はわたしが投げます」
となんとなく言ってみました。


するとその宣言がなぜかそのまま通ってしまい、
わたしは第2試合の先発投手に決まりました。
その時点では、
「勝てる訳はないだろうし目一杯『思い出作り』にがんばろう」
程度に軽く考えていました。


しかし、第2試合の対戦相手がどのようなチームであるかを知った瞬間
そのようなふぬけた考えは抜け、
「この試合、負ける訳にいかん!!!」
とわたしは(ひとりで)熱く燃え上がることになったのでした。



(ひっぱるほどの内容でもないですが思ったより長くなってしまったので)続く



※次回予告
 相手ベンチに飛び交う「ワー、キャー」の黄色い嬌声。
 それに対しお通夜のごとく静まり返る自軍ベンチ。
 「俺たちは、試合の勝利とか、野球とか、名誉とか、イデオロギーとか
  そんなちいさなもののために戦ってるんじゃない!」
 壮絶にして苛烈な、意地と涙のぶつかり合いの末に我々が見たものとは・・・。